天文ガイド 最優秀作品に見る統計的傾向(1992-2026)

2026/5/4 掲載

はじめに

私が天文趣味を初めてから40年超が経過し、本棚には1983年5月号から最新の2026年6月号まで515冊の天文ガイドが並んでいます(1983年は5月号と9~12月号)。この中にはアマチュア天体写真の進化が刻まれているはずです。
そこで、毎月の代表として最優秀作品を対象にして、1992年から最新の2026年の期間について、機材、露光時間、撮影対象などの情報を整理して統計的な傾向や長期的変化を分析してみました。

それでは、結果をご紹介していきます。

分析内容

①撮影対象

どんな撮影対象が多いのでしょうか?過去30年の変化はどうなのでしょうか?結果を見てみましょう。
なお、掲載しているグラフはクリックすると拡大表示できます。

撮影対象の割合(全期間)

fig1

全期間で見ると、409作品でした。
グラフは作品数で示していますが、円グラフですので視覚的に割合を把握できると思います。

  • ディープスカイ(星雲、銀河)が中心で、この2ジャンルで全体の大半(約60%)を占めています。その中で、星雲が最大カテゴリー、銀河はその次に位置しています。一方で星団は非常に少ないことがわかります。
    (補足:M45(すばる)は6作品あり、星雲に分類しています。)
  • 惑星や月などの太陽系天体は一定数あるものの、ディープスカイと比較すると比率が低いことがわかります。
  • 対象というよりは天体写真のジャンル的分類ですが、地上風景とのコラボレーションで魅せる星景写真は、一定数存在しますが、主要ジャンルにはなっていません。
  • 星団や彗星、流星などは少なく、イベントがあった時にスポット的に取り上げられている状況です。

このような分布になっている要因として、ディープスカイは太陽系天体に比べて対象数が多いことが影響しているのかもしれません。また、星団が少ない点については、見栄えや対象ごとの差が表現しにくいことなども関係しているのかもしれません。


撮影対象の割合(傾向分析:年毎の掲載数推移)

fig2

掲載年毎に撮影対象の掲載数を積み上げ棒グラフで表現してみました。

年次での掲載数は12作品しかなく年毎の変化が大きくなってしまうため、この分析では傾向がよくわかりません。
(補足:12作品に到達していない年は、最優秀作品の掲載がなかった月があることを示しています。)


撮影対象の割合(傾向分析:5年間の移動平均)

fig3
年毎の変化を平滑化し、大きな傾向を把握するため、5年間の移動平均処理を行った結果がこちらのグラフになります。
  • 星雲は長期的に増加し、主役として定着しています。
  • 銀河は近年、急増し、星雲に並ぶ状況になりつつあります。
  • 惑星は2000年頃にかけて増加に転じたものの以降は減少傾向、月は一貫してなだらかな減少傾向です。
  • 星景は山形の推移が見られ、2010~2020年頃にブームがあったが以降は減少に転じています。

全体の傾向としては、1990年代は比較的多様な対象が選出されていたのに対し、近年は星雲や銀河に集中する傾向が強まっているようです。
この変化から、淡い構造を高精度に描出する作品が評価され易くなっている可能性が考えられ、撮像機材や画像処理技術の進化により人気が高まっているのかなと考えました。

惑星については、1990年代後半に一時的な増加が見られますが、その後は長期的に減少傾向にあります。この増加時期は、ビデオカメラを用いた惑星撮影が普及し始めた時期と重なっていることから、従来のフィルム撮影では困難であった高精細な画像が得られるようになったことが影響している可能性があると考えました。


②撮像装置

掲載作品に使われた撮像装置(フィルム、CCD、デジカメ…)について整理した結果を示します。

撮像装置の割合(傾向分析:年毎の掲載数推移)

fig4

全てのデータについて、年毎に掲載された作品数を整理した結果を示します。
1992年には全ての作品がフィルム撮影でしたが、フィルムからデジタルへの移行、さらに冷却CCDから冷却CMOSへの移行という大きな技術的変化が確認できます。フィルムは2000年代前半までに減少し、その後はデジタル撮像が主流となっています。特に冷却CCDは長期間にわたり主要な装置として用いられてきましたが、近年では冷却CMOSへの移行が進んでいます。また、ビデオカメラや動画カメラといった一時的に使用された技術も見られますが、長期的な主流には至っていません。これらの変化は、撮像装置が高感度化・低ノイズ化の方向へ進化してきたことがうかがえ、撮影対象の変化とも関連している可能性があると考えられます。

一点、2020年に黒白フィルムの作品が1点ありますが、これは「50年間の歳差」という作品で、北極星の日周運動について50年前と現在の写真を2枚並べた組写真でした。50年前と同じ撮像装置を使ったことで、黒白フィルムが使われた例外事例です。


撮像装置の割合【星雲、星団、銀河、星野】(傾向分析:3年間の移動平均)

傾向を分析するため、3年間の移動平均処理を加えた結果を示します。

fig5

ディープスカイ(星雲、星団、銀河、星野)に絞って撮像装置の推移を見ると、非常に面白い結果になりました。
1990年代はフィルムが主体でしたが、2000年代前半までにデジタル撮像へ移行しています。その後、冷却CCDが長期間にわたり主要な撮像装置として用いられました。一方で、デジタル一眼も並行して普及し、一定割合で使用される状況が続いており、両者による二極的な構造が見られました。
2015年頃に冷却CMOSが登場してから急増し、近年では主流になっています。これに伴い、冷却CCDの割合は減少し、撮像装置の世代交代が進んでいることがあらわれていると考えられます。

このような変化は、より高感度・低ノイズでの撮影を可能にする方向への技術進化があることを表していて、この進化により星雲や銀河といった淡い対象の撮影が容易になったことが、前述の撮影対象の変化と関連している可能性があると考えられます。


撮像装置の割合【惑星、月、太陽】(傾向分析:3年間の移動平均)

fig6

惑星、月、太陽といった太陽系対象に同様の分析を行うと、ディープスカイとは異なる特徴が見られました。
1990年代はフィルムが主体でしたが、ディープスカイよりやや早くビデオカメラなどが使われ始めています。短時間露光撮影において動画の有効性が認められたためと考えられます。その後、デジカメなども試行された結果、動画カメラが主流になっていきました。冷却CCDは、一定の使用はあるものの主流にはなっていません。これは、惑星や月といった比較的明るい対象では短時間露光が基本となるため、長時間露光時の低ノイズ性能を特徴とする冷却CCDの利点が活かされにくく、多数のフレームを取得するための高いフレームレートが求められることが影響している可能性があると考えられます。2010年代後半以降になって、これらの要求に適したCMOSセンサーでの撮影が急速に普及し、近年では主流になっています。

1990年代後半からのビデオカメラの増加は、撮影対象の割合に見られた惑星を中心とした太陽系対象の掲載割合の増加と時期的に対応しており、関連がある可能性が考えられます。これは、技術進化で取り組む人が増えた可能性に加え、作品選考において新しい技術が評価されやすい可能性を示しており、雑誌として新しい潮流を紹介する役割とも整合すると考えられます。


③露光時間

ディープスカイ(星雲、星団、銀河、星野)を対象に1作品あたりの露光時間の推移を整理した結果を示します。

平均露光時間【星雲、星団、銀河、星野】(平均)

fig7

まず、ディープスカイ全体(星雲、星団、銀河、星野)を対象とした平均露光時間の推移を示します。
平均露光時間は長期的に増加傾向で、増え方は段階的な様相が見られます。2000年代前半までは1〜2時間程度でしたが、2005年頃には5時間前後に達し、さらに2016年以降には10時間を超える水準に達しました。以降は、平均値が大きく上昇する年が現れ、極めて長時間の露光を行う作品が登場していることが考えられます。
そこで、平均値だけでは実態を十分に捉えられない可能性があるため、年毎の最大値と最小値についても確認することにしました。


平均露光時間【星雲、星団、銀河、星野】(平均・最大・最小)

fig8

平均露光時間に加えて、各年における最大値および最小値をエラーバーとして示します。なお、グラフの縦軸スケールは先ほどより広く設定している点にご注意ください。
2000年代前半頃までは最大値と最小値の差は比較的小さいですが、2005年に33時間の作品が登場しています。最大値については、その後、2016年に74時間、2021年に278.75時間、2025年には338.2時間といった極めて長時間の作品が登場しました。一方で最小値についても増加はしているものの極端ではなく、作品によって露光時間の差が大きくなっている状況です。
露光時間が伸びた要因の1つ目は、フィルムからデジタル機器への移行です。これにより複数枚のデータを重ね合わせることが容易になり、複数夜に渡る撮影が可能になりました。2つ目はリモート観測の増加ではないかと考えられます。個人観測所の所有者は1990年代にもそれなりにおられましたが、2020年過ぎからはリモート観測を行う方が増えています。実際に、2021年に278.75hに到達した作品はリモート観測であり、このような観測スタイルが長時間露光を支える一因になっていると考えられます。


次に主要なディープスカイの対象である、星雲と銀河について、それぞれの露光時間の平均値、最大値、最小値を整理した結果を示します。

露光時間【星雲】(平均・最大・最小)

fig9

露光時間【銀河】(平均・最大・最小)

fig10

両者とも長期的に増加傾向にある点は共通し、増加のタイミングや傾きにも大きな違いは見られません。
一方で、年ごとの変動を見ると両者の大小関係は一定ではなく、平均露光時間においてどちらかに明確な優位差が生じているとは言えない結果になりました。
なお、最大露光時間については、極めて長時間の撮影例は主に星雲の方にみられていることがわかります。

④最優秀作品 初回受賞時の年齢

ここからは受賞者に焦点をあてて分析してみました。
まず、年齢です。
初めて最優秀作品に選ばれた時の受賞者の年齢を整理してみました。この分析は”初めて”最優秀を受賞した方の年齢のみに注目し、複数回受賞した方の2回目以降の年齢は除外しています。

最優秀作品 初回受賞時の年齢 全期間のヒストグラム

fig11

全期間を通じた分布を見ると、受賞年齢は30代後半から50代にかけて広く分布し、特に40代後半〜50代前半にかけて明確なピークが見られます。また、60代以上の受賞者も一定数存在し65歳あたりにもピークが見られます。幅広い年代に分布していますが、最年少は14歳で受賞年は2002年、次に若いのは17歳で受賞年は1994年、1999年、2009年であり、いずれも約20年以上前です。このことから、近年は若い方の受賞は少なくなっていると考えられました。
そこで、次に年毎の平均年齢の推移を分析してみました。


最優秀作品 初回受賞時の年齢 年毎の平均年齢の推移

fig12

平均年齢は長期的に上昇傾向を示しています。1990年代には30代後半を中心としていましたが、2000年代には40代前後、2010年代には50代を中心とする水準へ移行していることがわかりました。上昇の傾向は、2018年頃までは比較的直線的ですが、以降は高止まりしつつ、年ごとの変動も大きくなっているように見られます。


最優秀作品 初回受賞者数(年毎、3年間の移動平均)

fig13

もう1つ、年毎にその時に初めて最優秀作品に選ばれた方の合計人数をまとめてみました。傾向を分析するために3年間の移動平均にしています。
長期的にみて減少傾向であり、2015~2018年頃に一時的に増加に転じましたが、再び減少し、現在は年間4人程度になっていることがわかりました。


これらの結果から考えられる要因としては、以下のような複数の可能性が挙げられます。
第一に、天体写真を趣味とする人口構造の変化、特に高齢化や若年層の相対的減少が影響している可能性もありそうです。
第二に、SNSやオンラインコミュニティの普及により、作品発表や交流の場が分散し、従来の雑誌投稿に依存しない活動形態が一般化したことによる影響が考えられます。
第三に、撮影機材や画像処理技術の高度化により、一定水準以上の作品制作に必要な技術的・時間的コストが上昇し、結果として受賞に到達するための敷居が高くなっている可能性があります。
これらの要因は相互に独立したものではなく、いくつかの要因が重なって、こうした傾向が現れているのかもしれません。観測された年齢構造や受賞者数の変化は、その結果として現れていると考えられます。

⑤最優秀作品 初回受賞時の居住都道府県(1992~2026)

そのままのランキング

fig14
順位都道府県人数

初回最優秀作品受賞時の居住都道府県をそのまま集計すると、東京都が最も多く、次いで神奈川県、愛知県、大阪府といった人口の多い都市圏が上位に並ぶ結果となりました。
一方で、北海道、岡山県、長野県など、天体観測環境が比較的良好と考えられる地域も上位に含まれていることが確認されました。

このことから、単純な人口規模だけでなく、地域的な特性が影響している可能性が示唆されます。

そこで、都道府県別人口で規格化を行うことにしました。

1位東京都34人
2位神奈川県24人
3位愛知県18人
大阪府
5位北海道15人
6位埼玉県11人
兵庫県
8位千葉県9人
静岡県
岡山県
11位群馬県7人
京都府
13位福岡県6人
14位茨城県5人
長野県

人口1,000万人あたりで規格化(2025年の都道府県別人口を使用)

fig15
順位都道府県人数

2025年の都道府県別人口を利用して、人口1,000万人あたりで規格化した結果です。

面白いことに、「天文王国おかやま」の看板を掲げている岡山県が第1位になりました。「星取県」を名乗る鳥取県も5位躍進です。「長野県は宇宙県」を名乗る長野県も残りました。北海道は順位を下げましたが、それでも8位です。近畿地方で空が暗い代表格の和歌山県も7位に躍進してきました。

天文趣味に重要な「空の暗さ」と「晴れの多さ」との関連があるように思える結果です。

1位岡山県48人
2位徳島県42人
香川県
4位福井県39人
5位群馬県36人
鳥取県
7位和歌山県33人
8位北海道29人
高知県
8位京都府27人
大分県
12位神奈川県26人
石川県
14位静岡県25人
15位東京都24人
長野県
愛知県

この分析から、天体写真という趣味が都市的な人口集積よりも、観測環境といった自然条件に強く影響される可能性があるように思いました。
特に上位に位置する地域には、光害の少なさや晴天率の高さといった共通点が見られ、これらの条件が作品制作における地理的優位性として働いている可能性があります。一方で都市圏は、天文ショップへのアクセスがいいなど趣味を深める上での環境や地方へのアクセス性などの補完要因が影響している可能性を考えました。

⑥受賞回数と人数の関係

いよいよ最後の分析です。
最優秀作品を同じ方が何回受賞しているのか、人数はどれくらいなのか、1992年~2026年の期間においてカウントした結果です。

fig16

最多の受賞回数は7回でした。
受賞者の総数は253人です。

分布を見てみると、1回のみの受賞者が大半を占めており、2回以上受賞している方は少なくなっています。4回以上受賞している方はごく少数に限られています。
一方で、複数回受賞している方も一定数存在しており、受賞が特定の一部の方に大きく偏っているわけではないようにも見えます。


最後に

天文ガイド 読者の天体写真 最優秀作品を約35年分分析してみると、撮影技術の進歩、撮影スタイルの変化、そして受賞者層の変化が見えてきました。
この35年の間にフィルムからデジタルへの転換が進み、その利点を活かしながら、より高度で表現力の高い作品を目指して撮影スタイルが発展してきたことが、露光時間の推移などから感じられました。
一方で、新規の受賞者数の減少や初回受賞年齢の上昇といった傾向からは、新たに天文趣味に入ってくる方が以前より少なくなっている可能性も考えられます。ただし、作品発表の場が雑誌からSNSなどのオンラインへ広がっていることも踏まえると、単一の要因だけで説明できるものではなく、いくつかの流れが同時に進んだ結果として現在の状況が形作られていると考えられます。
今後、この傾向がどのように変化していくのか、それとも継続していくのかは興味深いところです。

一天文ファンとしては、多くの方が星空を撮ること、眺めること、そして感じることの楽しさに触れられ、天文趣味の世界がこれからもより楽しめる形で継続していくことを願っています。


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