オースチン彗星(1989c1)の思い出と新彗星への期待

2024/1/3掲載

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世紀の大彗星になると騒がれたオースチン彗星(1989c1、1995年に改訂された新しい符号制度ではC/1989 X1)のことをふと思い出し振り返ってみました。

きっかけは、「DOS/V POWER REPORT」の休刊、DOS/Vとは1990年にリリースされたDOS J4.0/Vのこと…1990年繋がりでオースチン彗星を思い出したというわけです。

1990年、それは私が大学受験に失敗し浪人した年です。
浪人生で表だって星空を眺めることができず、1990年5月6日の早朝、親に見つからないよう自宅を抜け出して、一輪車に載せて準備しておいた望遠鏡類一式をお供に、徒歩15分ほどの田んぼの傍で写真撮影に成功しました。

光害地の姫路市内での撮影でしたせいもあって、”しょぼい写り”ですが、それでも右下へ伸びるテイルがちゃんと写っています。 ハレー彗星は、すばると一緒に撮影した1枚しか成功せず、彗星の特徴であるテイルが写った彗星として、私の人生初の写真となりました。
ただ、撮影した当時はしょぼい写りにとてもがっかりしました。というのも、この彗星は盛り上がりがすごかったのです。


当時の天文ガイドを振り返る

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オースチン彗星の話題が初めて掲載された天文ガイドは1990年3月号(1990年2月5日発売)でした。
オースチン彗星が発見されたのは、1989年12月6日でしたので、この前号でも掲載できたのではと思いましたが、軌道確定から記事にするまでの時間が間に合わなかったのでしょうか。


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掲載されたのは、「彗星ガイド」です。
「ウエスト彗星以来14年、巨大な新彗星現る」と興奮が伝わる導入で始まり、「肉眼彗星になる…ぜひ見て下さい」という比較的落ち着いた結びです。


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次の号「1990年4月号」は『モンスター彗星がやってくる』という見出しと、当時として最も近い過去に見られた大彗星「ウエスト彗星」が表紙を飾りました。


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『モンスター彗星がやってくる!』の特集記事は、大きなイメージイラストが見開きで並び、心踊る導入です。


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「昼間でも見える可能性あり」という文面に、浪人生だった私も、これは見て、写真に撮りたいという気持ちが高まりました。


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さらに次の号、1990年4月5日発売の「1990年5月号」
オースチン彗星の想像図が表紙を飾り、心踊りました。

実はこの頃にはオースチン彗星は当初の予想程には明るくならない可能性が高いことがわかっていたようですが、この表紙、罪作りですねぇ。


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この号には天文ガイドにはめずらしい厚紙での切り抜き模型「オースチン彗星の立体軌道模型」が付属していました。
編集部の盛り上がりぶりが伝わってきます。


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さて、ページをめくっていると「5月のオースチン彗星の見え方」を解説したページが”パッと”開きました。
つまり、開きグセがついていたのです。

このページ、触り心地がごわごわしていて、ページの隙間に何やら溜まっています。


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拡大すると…
砂粒が挟まっていました。また紙にはヨレヨレになった跡が見えます。

ちょっと考えて、ハッとしました。
これは浪人生の当時の私が夜中に家を抜け出して田んぼのそばで望遠鏡を展開し、このページを広げて地面に置いて、彗星を探した痕跡だと気づきました。

この天文ガイドは、大学生になって名古屋まで運び、その後も4回の引っ越しを経験していますが、この砂粒はずっとここにあったのですね。
33年間もずっと


彗星は騒ぐとダメ?

「世間が騒ぐ彗星は期待外れに終わる」という”天文あるある”
このオースチン彗星の他にも、騒がれて期待外れだった彗星は 「コホーテク彗星」 「アイソン彗星」 などが思い浮かびます。

これらの彗星には、共通の特徴がありました。

彗星名離心率e
コホーテク彗星 (C/1973 E1)1.000008
オースチン彗星 (C/1989 X1)1.0002278
アイソン彗星 (C/2012 S1)1.0000026
(出展:wikipedia)
・0<e<1:楕円軌道…周期彗星
・e≧1:放物線,双曲線軌道…非周期彗星

その特徴は周期を定義できない非周期彗星、オールトの雲からやってきて、太陽に初めて近づく”処女彗星”であろうという点です。

オースチン彗星が期待通り明るくならなかった理由について「はるかな時空をかける処女たち」という渡部先生が書かれた文献があります。
この文献では、オースチン彗星で観測された光度変化の鈍化、ガスジェットを彗星核に形成された熱伝導を阻害するポーラスなマントルで説明しています。

2024年に到来するC/2023 A3(Tsuchinshan-ATLAS彗星)は?

さて、2024年9月27日に近日点に到達する期待の新彗星、C/2023 A3(Tsuchinshan-ATLAS彗星)はどうでしょうか?
ネットでこの彗星について検索すると「-0.7~-5等級で金星とほぼ同じ明るさ」「太陽の近くを通過し長く明るい尾を引く」といった心躍る文字が並びます。

ただ、この彗星も離心率eは1を超えていて、おそらく処女彗星です。
処女彗星としての期待、これまでの処女彗星の例から心配…、どちらもありますが、大きな核であろうという予想から大化けすると信じて待ちたいと思います。
私の彗星の撮影・画像処理技術は、オースチン彗星到来時に比べて大きく進歩しました。「ヨシ来い!大彗星☆彡」


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