オートコリメータでのニュートン鏡筒の光軸合わせ
〜高精度・おすすめのやり方:オートコリメータとチェシャアイピース併用〜

2021/10/11掲載

2穴式のオートコリメータを用いたニュートン鏡筒の光軸あわせ(光軸調整)について説明します。
オートコリメータは2穴式と1穴式がありますが、使い勝手の点から2穴式を選択することをおすすめします。ここで説明する方法は2穴式でしかできません。

アマチュアが使えるニュートン鏡筒の光軸合わせ用ツールはセンタリングアイピース(チェシャアイピース)やセンタリングチューブ(サイトチューブ)の他、レーザコリメータやオートコリメータなどがあります。
それらの中で最も精度良く光軸を合わせられるツールであるオートコリメータについて説明します。慣れないと他のツールで合わせた結果と矛盾があるように感じることがあり、事実、私も矛盾に悩んだことがありました。もし、あるツールでは合っているように見えるのに他のツールでは合っていないという状態であれば、光軸は合っていません。光軸が合えば、オートコリメータを含め、どのツールであっても矛盾なく合っている状態を確認できます。矛盾が生じた場合は、使用上の何かの問題が必ずあります。

今回説明する手順は、以下の沖田様のサイトに掲載されている方法です。こちらでは、光軸のズレ角度の理論計算により各方式の特徴を計算に基づいて解説されており、とても参考になりました。是非一度御覧になって下さい。
ニュートン反射の光軸修正法

オートコリメータでの調整の前準備

fig1

オートコリメータでの調整は、他の手段で大まかに合わせた後に行います。というのも、オートコリメータの場合、ある程度光軸が合っていないと調整に用いるセンターマークの反射像が視野内に見えず調整を行うことができないからです。
以下の手順で示す「4つの反射像(マーク)」が視野内に見えない場合は、別の手段で光軸の調整をある程度行っておいて下さい。
私は、左の写真に示すタカハシの「センタリングアイピース」と「センタリングチューブ」を用いて、オートコリメータ調整の前準備としての調整を行っています。

タカハシのセンタリングアイピースは、一般的には「チェシャアイピース」、センタリングチューブを合わせて組み立てた状態のものは「サイトチューブ」と呼ばれます。

オートコリメータでの調整原理と反射像の説明

fig2

2穴式のオートコリメータは覗き穴がセンター穴とすこしずれたオフセット穴の2箇所あります。
覗き穴の裏側は平面鏡になっています。
写真のオートコリメータは、名古屋のエレクトリックシープのオリジナル製品です。海外製に比べ安価ですが、精度はしっかりしていておすすめの製品です。

エレクトリップシープオリジナルのオートコリメータ(2穴式、アメリカンサイズ)

fig3

オートコリメータでの調整原理は合わせ鏡です。
オートコリメータの平面鏡と主鏡が斜鏡を介して、合わせ鏡を構成します。二つの鏡の垂線が斜鏡を介して完全に重なれば、オートコリメータの覗き穴から主鏡のセンターマーク複数重なって見えます。
これが光軸があった状態というわけです。

fig4

オートコリメータの使用において、センターマークの見え方はとても重要です。
合わせ鏡によって複数に見えるセンターマークが重なって見えることを確認するには、左図のような形のマークが適しています。また、マークが光を反射する素材で出来ていると懐中電灯で照らすことで光って見え、反射像が見えやすくなります。
このマークはオートコリメータも販売しているエレクトリックシープで購入したものです。非常に見やすいマークでおすすめです。
色は3種類あります。お好みで良いと思いますが、私は最も反射率が高いという説明があった(白)のマークを購入しました。

エレクトリップシープの再帰反射センターマークセット(白)

fig5

上記の再帰反射センターマークを用いた場合に、オートコリメータでのセンターマークの見え方は左図のようになります(黄色のセンターマークで説明します)。
今後の説明でも用いますが、マークの名称を(P),(1),(2),(3)とします。
光軸の調整において、この4種類の像の見え方、向きが非常に重要です。わからなくなったらこの図を見て確認して下さい。

オートコリメータを使用する上での注意事項

fig3

左図はオートコリメータでの調整原理で用いたものと同じ図です。
こちらの図についてあらためて説明します。
光軸調整において、角度を調整する鏡は、斜鏡と主鏡の二つです。オートコリメータでの調整原理はオートコリメータの平面鏡と鏡筒の主鏡の合わせ鏡であると説明しました。ということは、斜鏡と主鏡の調整基準はオートコリメータの平面鏡の角度(つまり、その垂線)です。
このことから、オートコリメータを接眼部に取り付ける際に、取り付けし直してもその鏡の傾きが変わらないこと、つまり取付再現性が重要になります。
また、接眼部に回転機構があり、その機構を用いる場合は、回転による光軸ずれを防ぐために回転機構の軸とオートコリメータ平面鏡が垂直であることが必要です。この調整はほとんどの望遠鏡では不可能ですのであきらめるしかありません。私は、MT-200用に調整機構を設計製作して使用しております(いずれホームページにてご紹介いたします)。
まとめると以下のようになります。

最も重要な事オートコリメータの取付再現性
(平面鏡の傾きが変わらないこと)
状況により満たすべき事接眼部に回転機構の中心軸がオートコリメータの平面鏡に垂直
(接眼部の回転機構を使用する場合)

fig6

私が知る限り市販されているオートコリメータは、アメリカンサイズまたは2インチサイズのアイピース差込口(接眼部)へ取り付ける方式になっています。この場合、接眼部の構造が調整の精度に重要です。
やってみてわかったことですが、タカハシの締め付けリング方式の接眼部はオートコリメータの接続には使えません(取付再現精度が悪すぎる)。
タカハシの接眼部はアイピースの外筒を傷つけないようにという設計思想と思いますが、内部に樹脂リングが使われています。この樹脂のたわみおよび、樹脂リングの厚みが薄いことなどが影響(推測)し、オートコリメータの取付角度(平面鏡の傾き)が取り付ける都度若干ズレてしまいます。
ビクセンなどのサイドねじ式の接眼部を用いるようにして下さい。ビクセン製であってもタカハシの鏡筒にも取付できるものがあります(例:接眼アダプター36.4→31.7AD)

fig7

私はこの接続再現性を確実にするためにオートコリメータ専用の接眼部をワンオフで製作してもらいました。以下に説明するように、ビクセンのものより締め付けねじ数を増やし、取付精度をより向上させています。
取付は側面の4箇所のねじでオートコリメータの外筒を抑える方式で、確実にオートコリメータの外筒が、製作した接眼部の内面に添うようにしてあります。また、この接眼部はオートコリメータから外さないようにしており、鏡筒の接眼部への取付は、M36.4 P0.75のねじ部で行っています。

光軸調整手順

光軸調整方法を説明します。
ここで説明する調整方法は、一般にオートコリメータを用いた光軸調整方法で紹介されている手順とは異なります。
オートコリメータとチェシャアイピースの両方を用いる方法で、オートコリメータで合わせにくいセンターの覗き穴での調整が不要(確認でのみ使用する)であるため、非常に調整しやすく、完了した際の光軸の精度は一般に説明される方法と同じ精度が得られます。光軸調整で悩みのある方は一度試してみて下さい。

➀オートコリメータのオフセット穴で斜鏡の調整

fig8

冒頭述べたように、タカハシのセンタリングアイピース(チェシャアイピース)やセンタリングチューブ(サイトチューブ)などを用いて、ある程度、光軸を合わせた上で、この調整を始めます。
オートコリメータのオフセット穴よりセンターマーク像を確認して下さい。
左図に模式図を示しますが、最初は、4つのマークはズレて見えます。この状態で(P)と(2)および(1)と(3)が重なって見えるまで、斜鏡の傾きを調整して下さい。
やってみるとわかりますが、上述のセンターマークを用いる場合重なると丸に見えることと(P)と(2)はどちらも鮮明に見えることから調整作業は容易です。
【注意】この段階では、斜鏡も主鏡もどちらの光軸もまだ合っていません
オフセット穴では、光軸が合っていなくても、斜鏡の調整のみで、この状態になります。

➁チェシャアイピースで主鏡の調整

fig9

次にチェシャアイピース(タカハシのセンタリングアイピースなど)に交換し、主鏡の傾きを調整します。
左図のように、主鏡に貼り付けたセンターマークにチェシャアイピースの反射像(二重リング)が同心で一致するよう主鏡の傾きのみを調整して下さい。

【補足】
チェシャアイピースは、取付時の傾きの影響は受けませんので、タカハシの接眼部を用いて問題ありません。

➂オートコリメータでの状態確認

fig10

次に再び、オートコリメータに交換し、まずオフセット穴から、4つのマークの見え方を確認します。➁の操作をしたことで、ズレているはずです。
ここで、➀と同様の調整を行い、(P)と(2)および(1)と(3)が重なって見えるまで、斜鏡の傾きを調整して下さい。
この後に、センター穴より覗いて(P)、(1)、(2)、(3)の4つのマークが重なって見えるか確認して下さい。この確認は非常に見えずらいです。
斜鏡のセル(胴部)に軽く力を加えて、斜鏡をたわませてマークがばらける様子を見て、重なりをチェックすると多少わかりやすくなります。
1回の操作で、4つの像が重なることはまずありえません。➀〜➂を複数回(少なくとも3〜4回以上は必要)繰り返していくと、下表のA〜Cで示す3つの確認方法の全てにおいて、合っている状態に近づいていきます。
A〜Cの全てが合っている状態になるまで、➀〜➂を繰返して下さい。
全て合っている状態になれば、光軸合わせは終了です。


ツール合っている状態
オートコリメータオフセット穴(P)と(2)および(1)と(3)が重なって見える
オートコリメータセンター穴(P)、(1)、(2)、(3)が全て重なって見える
チェシャアイピースチェシャアイピースの反射像(二重リング)とセンターマークが同心に一致して見える

【注意】
Bは確認しずらいので、AとCを重視して確認し、最後にBも満たされていることを確認するやり方が間違いないと思います。
私は、Bが一致しているように見えるのに、Cがずれているということで矛盾を感じた経験がありますが、その場合は、実はBにおいて見えにくい反射像が重なっているように見えているだけで、実際には重なっていませんでした。つまり光軸は合っていない状態でした。
A〜Cの全てが満たされる状態になるまで、➀〜➂の作業を繰り返すことが重要です。必ず一致し、光軸があった状態になります。



to astro

to HOME